大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)7770号 判決 1983年12月23日

原告

株式会社タンク

右訴訟代理人

藤巻次雄

被告

大洋潜水株式会社

被告

株式会社タバタ

右被告ら訴訟代理人

米山龍人

古川清箕

福岡勇

被告

株式会社マコト産業

右訴訟代理人

安藤純次

角谷哲夫

主文

一  被告大洋潜水株式会社は、別紙目録(一)(1)ないし(25)記載のウエットスーツの赤線部分に、別紙目録(三)1記載のA'ラインまたはB'ラインを使用したウエットスーツを製造、販売してはならない。

二  被告株式会社タバタは、前項記載のウエットスーツを販売してはならない。

三  被告株式会社マコト産業は、別紙目録(一)(1)ないし(25)記載のウエットスーツの赤線部分に、別紙目録(三)2記載のA''ラインまたはB''ラインを使用したウエットスーツを販売してはならない。

四  被告大洋潜水株式会社、同株式会社タバタは、原告に対し、各自金一五万円を支払え。

五  被告株式会社マコト産業は、原告に対し、金一五万円を支払え。

六  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

八  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大洋潜水株式会社・同株式会社タバタは、別紙目録(一)(1)ないし(25)記載の赤線部分に、別紙目録(三)1記載のA'、B'、C'、D'の各ラインを使用したウエットスーツを製造・販売してはならない。

2  被告株式会社マコト産業は、別紙目録(一)(1)ないし(25)記載のウエットスーツの赤線部分に、別紙目録(三)2記載のA''、B''、C''、D''の各ラインを使用したウエットスーツを製造・販売してはならない。

3  被告らは原告に対し、各自金六〇万円を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  原告は、主にウェットスーツ(潜水及びサーフィン用の防寒、防水服―以下適宜「スーツ」という)の製造販売を業とする会社である。

二1  原告は、昭和五三年五月以来、別紙目録(二)記載の、各色を三色ずつ組み合わせたAないしDのライン(以下各別に「Aライン」などといい、合わせて「本件ライン」という)を、別紙目録(一)記載のいずれかの箇所に使用したスーツ(以下「原告製品」という)を製造販売している。

2  原告は、右のとおり、昭和五三年五月、トロピカルラインと名づけて本件ラインを使用したファッション性を重視したカラースーツを発表し、同時に販売したが、それは、ウエットスーツ業界における従来の常識に反するものであつた。

すなわち、昭和五三年以前には、海洋スポーツも現在ほどレジャー化しておらず、黒のスーツよりかなり高価なカラースーツを買うという状況にはなく、スーツの需要者は、スーツをファッションとして着て楽しむのではなく、防寒、防水のために着るという伝統的な考え方から抜け切れなかつた。

3  原告は、原告製品をスーツ製造販売業界、小売店及び消費者に広く知られるように左記の宣伝を行つた。

(一) 昭和五四年中に原告製品を掲載したカタログ(昭和五四年用―甲第一号証の二)を全国の主要販売店約一〇〇店に、昭和五五年中に同様なカタログ(甲第一号証の三)を約一五〇店に、それぞれ持参して挨拶にまわり、その他の販売店には郵送した。

(二) 昭和五三年五月から昭和五五年一二月にかけて、別紙「原告製品掲載誌一覧表」番号①ないし⑤、⑦、同⑧ないし⑬記載の各雑誌(以下各別に「掲載誌①」などという)に原告製品の広告を掲載した。

4(一)  原告の右宣伝とは別に、掲載誌⑥、⑦、⑫、⑬のダイビング、サーフィン関係の雑誌は、昭和五四年、同五五年に原告製品の特集記事を掲載し、原告製品に使用されている本件ラインが原告の商品であることを、業界、需要者などに知らしめた。すなわち、

(1) 同⑥には、「関西では有数のメーカー、タンクが今シーズンに向けて発表したウエット・スーツは、新感覚に溢れている。これまでになかつたメタリックなカラートーンは、スキー選手のユニフォームのようなスピード感を漂わせ、ウエット・スーツに初めて本格的なファッション感覚を取り入れている。素材には動きやすいトリコットを用い、機能的にもより研究されたものばかりだ」。

(2) 同⑦は、数多くのカラースーツの中から特に原告の本件ライン入りカラースーツの特集を行つている。

(3) 同⑫では、ウエットスーツのファッション性を特集し、原告の本件ライン入りスーツを大きく取り扱つている。

(4) 同⑬は、カラフルウエットスーツ特集として、各社のカラースーツと共に原告製品を掲載している。

(二)  昭和五四年における掲載紙⑥、⑦の紹介記事は、同年春から夏にかけてのダイバーやサーファーの関心が、ファッション性のあるカラースーツに集まり、中でも原告の本件ライン入りスーツが注目の的であつたことを如実に物語つている。

5  商品に施された色彩は、「他人」の商品がその色で知られ、その色の商品を見る者がだれでも「他人」の商品と判断するに至つた(セカンダリーミーニング)場合とか、その色である旨を表示すればだれでも直ちに他人の商品であると判断する(トレードネーム)場合など、その色が「他人」の商品と極めて密接に結合し、出所表示の機能を果たしているような特別の場合には、不正競争防止法一条一項一号にいわゆる「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に当たる。

ところで、前記2ないし4の事実によれば、遅くとも昭和五五年夏には、販売店は勿論、サーフィンやダイビングに関心のある者ならだれでも、本件ラインの付されたウエットスーツを見れば直ちにこれを原告の商品であるとの判断をなすに至つたこと、すなわち本件ラインが原告製品と極めて密接に結合して原告の商品であるとの出所表示の機能を獲得し、かつ原告の商品の表示として周知となつたことが明らかである。

三1  被告大洋潜水株式会社(以下「被告大洋潜水」という)は、昭和五六年二月頃から、別紙目録(二)1記載のA'、B'の各ライン(以下各別に「A'ライン」などといい、A'ないしD'ラインを合わせて「タバタライン」という)を使用したスーツを業として製造販売し、被告株式会社タバタ(以下「被告タバタ」という)は、これを買受けて業として販売している(以下「タバタ製品」という)。

2  被告株式会社マコト産業(以下「被告マコト産業」という)は、昭和五六年四月以来別紙目録(二)2記載のA''、B''ライン(以下各別に「A''ライン」などといい、A''ないしD''ラインを合わせて「マコトライン」という)を使用したコメットゴアテックススーツ(以下「マコト製品」という)を業として製造販売している。

四  原告が使用するA、Bラインと被告大洋潜水・同タバタが使用するA'、B'ライン及び被告マコト産業が使用するA''、B''ラインとが極めて類似していることは見た目にも明らかであるが、JIS規格による色に関する表示によつても両者の類似性が裏づけられる(甲第一七号証の一・二)。すなわち、色名による表示によればAラインとA'ライン・A''ライン、BラインとB'ライン・B''ラインの各々三本のライン中二本までが同一の表示となつている。また三属性による表示、XYZ表色系による表示(JISZ八七〇一)の各数値を比較してもかなり類似しているといえる。

そのために、被告大洋潜水、同タバタのタバタスーツの製造販売、或いは販売行為、及び被告マコト産業のマコトスーツの販売行為によつて、タバタスーツまたはマコトスーツが原告スーツであるかのような誤認混同を同業者・需要者に生じさせており、それによつて原告の営業上の利益が害せられるおそれがある。

したがつて、被告らの右製造販売行為或いは販売行為は、不正競争防止法一条一項一号に違反する違法なものである。

五  CラインとC'・C''ライン、DラインとD'・D''ラインとはそれぞれ同一であるところ、被告らがそれらの使用をしていないとしても、既に類似品が出まわつており、被告らが、いつ右各ラインを入手し、使用するやも知れないので予め使用差止めを求めておく必要性がある。

六1  被告大洋潜水、同タバタは、タバタ製品を製造販売し、或いは販売し、被告マコト産業は、マコト製品を製造販売することにより、需要者をしてタバタ製品、マコト製品が原告製品であるかのような混同を生ぜしめることを知りながら又は過失により知らないで、右行為をしたのであるから、民法七〇九条により、原告の蒙つた左記の損害を賠償する義務がある。

2  原告は、被告らの右不法行為により、原告訴訟代理人藤巻次雄に本訴の提起と追行を委任することを余儀なくされ、同人に弁護士費用として六〇万円を支払う旨約したが、これは本件不法行為による損害に当たる。

七  よつて原告は、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告大洋潜水・同タバタに対し請求の趣旨1記載の差止め、被告マコト産業に対し同2記載の差止め並びに被告ら各自に対し、不法行為に基づき、弁護士費用六〇万円の支払いをそれぞれ求める。<以下、省略>

理由

一請求原因一の事実(原告の営業内容)は、当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、請求原因二1の事実(原告が本件ラインを使用した原告製品を製造販売していること)が認められる。

二そこで、本件ラインを使用した原告製品が原告商品であることの出所表示機能・周知性を有しているか否かにつき検討する。

1  <証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和五三年五月、本件ラインを使用したカラースーツを発表したが、それ以前において、ゴム地に各種の色布を張りつけたカラースーツが昭和四五年頃からウエットスーツ業者により販売されていたものの、ウエットスーツの色は、素材であるゴム地の色をそのまま使用した黒色が主流であつた。

(二)  昭和五二年当時我が国においては、海洋スポーツの先進国である欧米ほどにカラースーツの着用がみられない状況にあつたことから、原告は、ファッション性豊かなカラースーツの開発を試み、同年秋、それに使用するラインとして本件ラインを組み合わせた上、訴外東レテキスタイル株式会社に委託して本件ラインの布地を製作させ、訴外山本化学工業株式会社においてスポンジゴムに右布地を接着させて、これを買取り原告製品を製作することとした。

(三)  本件AないしDラインは、別紙目録(二)に示されるように、それぞれ黄赤、青、黄みの緑、赤紫を中央に配置した色(以下「中央の色」という)とするこれと同系色三色の組合わせからなり、各ラインの三色は右中央の色を真中に、その隣りにこれより明度の低い濃い色を、その反対側には右中央の色より明度の高い淡い色を配した配列、業界でいわゆる色落ちの配色、即ち最も明度の低い濃い色を基調として、順次明度が高く淡い色へと移行する配色となつており、原告製品の発売以前には、このような色落ち三色ラインを使用したものはウエットスーツ業界にはなかつた。

(四)  原告は、昭和五三年中、本件ラインをトロピカルラインと名付けて別紙目録(一)(1)ないし(25)のウエットスーツの箇所(以下「使用箇所(1)」などという)に使用した原告製品のカタログを北海道から沖縄までの取引先約五〇店に配布し、更に掲載誌①に、使用箇所(8)、(12)に本件ラインを使用した原告製品の広告を掲載して宣伝に努めたところ、原告製品の売り上げが寄与して、同年中における原告商品全体の販売高が若干の増大をみた。

(五)  原告は、昭和五四年中使用箇所(1)ないし(25)に本件ラインを使用した原告製品のカタログを全国約一〇〇の販売店に配布し、掲載誌②ないし⑤、⑦に本件ラインを使用した原告製品の広告を掲載し、うち⑦には、使用箇所(1)、(17)に右ラインを使用したものが掲載されている。

また、掲載誌⑥には、請求原因二4(一)(1)に記載どおりの紹介記事並びに使用箇所⑨、⑭、⑩、に本件ラインを使用した原告製品が掲載されている。

更に掲載誌⑦には、「カラースーツを着ると粋なダイバーになれる!」と題して原告製品の特集記事を載せ、その中で使用箇所(1)、(17)の原告製品を紹介している。

そして、昭和五四年における原告製品の売り上げ高は、昭和五三年に比べ大むね二割程度の伸びを示し、同年末には、東京池袋所在の西武百貨店、神戸所在のスポーツワールドサーティスリーの二店に原告製品を納品するようになつた。

(六)  原告は、昭和五五年中使用箇所(1)ないし(25)に本件ラインを使用した原告製品のカタログを、全国約一五〇店の販売店に配布し、更に相当数の専門誌に本件ラインを使用した原告製品の広告を掲載したが、掲載誌⑫には、「80年はウエットスーツのファッション性が問われる」と題するウエットスーツの特集記事において、使用箇所(1)、(1)と(3)、(8)、(12)、(17)、(18)と(19)に本件ラインを使用した原告製品が掲載されている。

また掲載誌⑬には、「カラフルウエットスーツ」と題して他社製品と共に、使用箇所(1)、(17)、(18)と(19)に本件ラインを使用した原告製品が紹介されている。

そして、昭和五五年中における原告製品の売り上げ高は、三割前後の伸びを示した。

(七)  なお、訴外山本化学工業株式会社は、原告の承諾を得てオーストラリア所在の訴外ダイブ・エヌ・サーフターキー社に対し、昭和五三年一一月から昭和五五年七月までの間に少量の本件ラインを輸出し、被告タバタは、昭和五四年初め頃右訴外会社からAラインを使用した商品名「パイピングホット」というウエットスーツを輸入し販売をはじめたので、同年秋、原告から同被告宛に同一ラインを使用したウエットスーツを販売しないようにとの口頭の警告をしたところ、程なく右商品の殆んどが店頭から姿を消した。これ以外に昭和五五年一〇月末以前本件ライン及びこれと類似のラインを使用したウエットスーツがウエットスーツ市場に出た形跡はない。

以上の事実が認められ、<反証判断略>。

2  以上の事実に基づき、原告製品の商品出所表示機能・周知性の有無をみる。

(一)  ところで、色彩は、本来何人も自由に選択して使用することが許されるものであるが、特定の単色の色彩又は複数の色彩の特定の配色の使用が当該商品には従来見られなかつた新規なものであるときには、特定人が右特定の色彩、配色を当該商品に反覆継続して使用することにより需要者をして右特定の色彩・配色の施こされた商品がこれを使用した右特定人のものである旨の連想を抱かせるようになることは否定できないところであり、このように商品と特定の色彩・配色との組合せが特定人の商品であることを識別させるに至つた場合には、右商品と色彩・色彩の配色との組合わせも又、商品の形態と同様、不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」たり得るものといわなければならない。

(二)  これを本件につきみるに、前記認定のとおり、本件AないしDラインの如き黄赤、青、黄みの緑、赤紫を中央の色とした同系色三色をそれぞれ明度の低い濃色から明度の高い淡色へ移行する色落ちに配列した色ラインを使用したウエットスーツは、原告製品の発売時である昭和五三年五月以前になかつたこと、本件ラインを使用した原告製品がその後売り上げを順調に伸ばし、昭和五五年末までに海洋スポーツの各種専門誌にも自ら多数広告して宣伝に努め、また右各雑誌社の紹介記事にも数回にわたり掲載されており、これらの月当たり発行部数も八万部から三五万部と多く、販売地域も全国にまたがつていること、原告製品に使用されている本件ラインは見た眼にも鮮やかで、人の眼を惹くに足るものであり、昭和五三年五月の発売から昭和五五年一〇月末までの間に、一時、Aライン付きの輸入スーツが販売されたものの少数に止まり原告からの警告により市場から姿を消しており、結局、右期間中原告は、本件ラインを独占的かつ継続的に原告のウエットスーツに使用してきたといえることを考慮すると、本件ラインを使用箇所(1)ないし(25)に使用した原告製品は、遅くとも昭和五五年におけるウエットスーツの一般需要者の最多需要期を過ぎたと思われる同年八月末には、原告商品であることの出所表示機能を獲得し、同業者、小売店、一般需要者などに広く知られるに至つたということができる。

(三)  もつとも、被告大洋潜水、同タバタは、昭和五三年五月以前にキヌガワパシフィック株式会社、株式会社ビクトリー、被告大洋潜水がそれぞれライン入りカラースーツを発売していたと主張し、<証拠>を総合すると、の製品は、紺地のスーツの袖・脇・下肢の両側面にそれぞれ黄と赤の単色ラインが使われているもの、胴体全体にわたり縦縞模様の入つたものなどがあり、また、の製品は、レインボーラインと称する赤・緑・黄・橙・青が順次配列されたカラーラインをスーツ側面の縦方向の黄色ライン上に短く横向きに断続的に使つたもの・スーツ側面に縦方向のラインとして使つたもの、赤地のスーツ両側に白と黒の組合せラインを入れたものなどであり、の製品は、肩・上肢・胴・下肢側面に、黄色ラインを中心にそれをはさんだ形の黄緑色ラインの合計三本からなるラインを縦方向に使用したスーツ、赤・白・紺の組合せラインを使用したスーツなどであることが認められ、いずれもさきに認定した本件ラインにみられる黄赤・青・黄みの緑・赤紫を中央の色とする同系色の三色を順次色落ちに配列した特徴を備えているものではない。ために、同じくライン状の模様を使用した商品の中にあつても原告製品は右特徴のある本件ラインを使用したことによつて看る者に他と際立つた特別の印象を与えていることが明らかであるから、右各製品の存在が前示原告製品の有する商品表示機能を失わしめるものではない。

(四)  また同被告らは、訴外株式会社美津濃が本件ラインと同一又は酷似するラインを使用した製品を発売していると主張するところ、なるほど<証拠>によれば、スポーツウエアの上下肢両外側面に各種の色ラインを二本又は数本組み合わせたラインを使用したもの、或いは、このラインの両上腕部を胸の上部において横一文字に引いた同じラインで連結したものなどが昭和五四年の株式会社美津濃の製品カタログに掲載されているけれども、これらのラインも前同様本件ラインの特徴である同系色で順次色落ちの三色を一組のラインとする構成を有するものではないことが認められ、この点において原告の本件ラインと異なる上に、陸上における使用を目的としたスポーツウエアである点において、原告製品の如きウエットスーツとは使用目的場所を異にすることが明らかである。

(五)  次に被告らは、原告製品において本件ラインが主要部をなしておらず、それ以外のスーツ本体の色彩、形態などによつて看る者に異なる印象を与えると主張するところ、<証拠>によれば、本件ラインは、看る者の眼を惹きつける鮮やかな色調を有し、殊に黒色系、反対色系の場合に一層目立つことが認められ且つ原告も、前示本件ラインの開発の目的上当然のことながら、右本件ラインを別紙目録(一)の(1)ないし(25)の個所に目立たしめる様な態様でこれを付しているのであるから、原告製品における本件ラインは、それ自体スーツ本体の色彩、形態から独立して商品の出所表示機能を有するというに妨げない。

(六)  右(三)ないし(五)のとおり、本件ラインを使用した原告製品が商品出所表示機能・周知性を有しない旨の被告らの主張は採用の限りでない。

三被告大洋潜水が三色ラインを使用したカラースーツを業として製造販売し、被告タバタがこれを買い受けて業として販売していること、被告マコト産業がコメットゴアテックススーツを業として販売していることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告大洋潜水は、昭和五五年一一月から、別紙目録(三)1のA'、B'ラインの各両側に黒地を、各三色ラインの一色幅より太めに残したものをそれぞれ使用したタバタスーツを業として製造販売し、被告タバタは、これを買受けて業として販売しており、タバタスーツにおける右ラインの使用箇所は、使用箇所(1)と(2)、(1)と(3)、(2)、(12)、(17)である。

しかし、同被告らは、同目録1記載のC'、D'ラインを使用したウエットスーツを現在は勿論過去においても製造、販売したことはない。

2  被告マコト産業は、昭和五六年四月から、コメットゴアテックススーツと名付けて、別紙目録(三)2記載のA''、B''ラインを使用したマコト製品を、訴外株式会社東潜に製造納品させて業として販売しており、マコト製品には、A''、B''ラインの使用箇所が使用箇所(12)と(13)でしかも(12)の箇所のラインを二列としているもの、(19)と(21)でしかも(21)の箇所のラインを二列としているものがある。

しかし、同被告は、C''、D''ラインを使用したウエットスーツを、現在は勿論過去においても製造販売したことはない。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四そこで、右二、三で認定したところに基づき、本件ラインを使用した原告製品とタバタ製品及びマコト製品を対比する。

1  まずA、Bラインを使用した原告製品とA'、B'ラインを使用したタバタ製品とを対比する。

(一)  A、BラインとA'、B'ラインは、各三色ラインの幅において一致し、各三色ライン間の黒色ラインの幅も近似する。

(二)  AラインとA'ラインとは見た眼において、いずれも黄赤系の色を中央の色とし、順次濃色(黄みのさえた赤)から淡色(ふかい黄又は黄赤)へと色落ちとなつた三色からなる色ラインであり、鮮やかな色調を有する点で類似するのみならず、JIS規格の一般色名において三色中二色が一致している上に、明度においても低い色から順次高い色へと配列されている点で類似していることが窺われ、これらから、AラインとA'ラインとは類似の色ラインということができる。

(三)  BラインとB'ラインとは、見た眼において、いずれも青色を中央の色とし、順次濃色(さえた青又は紫みの青)から淡色(にぶい青)へと色落ちとなつた三色からなる色ラインであり、鮮やかな色調を有する点で類似するのみならず、JIS規格の一般色名において三色中二色が一致している上に、明度においても順次低い色から高い色へと配列されている点で類似していることが窺われ、これらの点からBラインとB'ラインとは類似の色ラインということができる。

(四)  原告製品とタバタ製品とは、色ラインが使用箇所(1)(2)、(3)、(12)、(17)のに目立つように使用してある点において共通する。

(五) したがつて、タバタ製品は、原告製品中右各使用箇所にA、Bラインを使用してあるものとのみ類似し、右原告製品との間に誤認混同を生ぜしめているというべきである。

2  A、Bラインを使用した原告製品とA''、B''ラインを使用したマコト製品とを対比する。

(一)  A、Bライン、A''、B''ラインは、各三色ラインの幅において一致し、各三色ライン間の黒色ラインの幅も近似する。

(二)  AラインとA''ラインとは、見た眼において、いずれも黄赤系の色を中央の色とし順次濃色(黄みのさえた赤)から淡色(ふかい黄又は黄赤)へと色落ちとなつた三色からなる色ラインであり、鮮やかな色調を有する点で類似するのみならず、JIS規格の一般色名において一致している上に、明度においても低い色から順次高い色へと配列されている点で類似していることが窺われ、これらからAラインとA''ラインとは類似の色ラインということができる。

(三)  BラインとB''ラインとは、見た眼において、いずれも青色を中央の色とし、順次濃色(さえた青又は紫みの青)から淡色(にぶい青)へと色落ちとなつた三色からなる色ラインであり、鮮やかな色調を有する点で類似するのみならず、JIS規格の一般色名において一致している上に、明度においても低い色から順次高い色へと配列されている点で類似していることが窺われ、これらから、BラインとB''ラインとは類似の色ラインということができる。

(四)  原告製品とマコト製品とは、色ラインが使用箇所(12)、(13)、(19)、(21)に目立つように使用してある点において共通する。

(五) したがつて、マコト製品は、原告製品中右各使用箇所にA、Bラインを使用してあるものとのみ類似し、右原告製品との間に誤認混同を生ぜしめているというべきである。

3  なおタバタ製品の色ラインは、A'、B'ラインの両側に各三色ラインの一色よりやや幅広の黒地を残したものである点において本件A、Bラインとの相違がみられるけれども、右黒地部分は、A'、B'ラインと相俟つて五列の配色ラインをなすというよりむしろ、A'、B'ラインの部分を鮮明に浮き立たせていることが看取されるのであるから、前記2の類似性に関する各結論に消長を来たさない。

4  被告らは、原告製品、タバタ製品、マコト製品にはそれぞれ独自の自社商標が付されており、また、それぞれ色ライン以外の部位の配色、形態などに独自性があるから、原告製品と右被告らの製品間に誤認混同を生じないかの如く主張するところ、<証拠>を総合すると、原告製品には、「TANK」「SUNFAN」、アザラシのマークの一個又は複数個がついているものだけでなく、これらの商標が付いていないものもあること、被告大洋潜水・同タバタの製品の中にも、同様自社の商標の付いていないものがあること、マコト製品には、被告マコト産業のウインドサーフィン用の商標であるコメットマークが付いていること、これら各製品は、色ライン以外の部位の形態、色彩、配色において相違すること、しかしながら、右各製品を全体として観察するときには、右各色ラインに共通する鮮やかな色調とメタリックな光沢が需要者の眼を強く惹くのに比べて、これらの相違部分は、いずれもさほど目立たず、むしろ被告製品における前示ラインの使用も原告製品における前示使用態様と同じく、スーツ本体の生地・形態の如何に拘らず、これを目立たしめるような態様において使用されていることが認められ、右事実のもとでは、右各製品における、色ライン以外の部分の形態、色彩、配色の相違及び商標が付されていることは、未だ本件ラインによつてもたらされる原告製品と被告製品との混同誤認を妨げる機能を果たしているということはできない。

五そうすると、被告大洋潜水が、使用箇所(1)、(2)、(3)、(12)、(17)にA'、B'ラインを使用したウエットスーツを製造販売し、被告タバタがこれを販売する行為及び被告マコト産業が使用箇所(12)、(13)、(19)、(21)にA''、B''ラインを使用したマコト製品を販売する行為によつて原告の営業が害せられるおそれがあるし、また、被告らが別紙目録(一)中右各使用箇所以外の箇所に右の各ラインを使用したウエットスーツを製造販売し、又は販売したことを認めるに足りる証拠はないけれども、右各ラインの使用箇所を変更することは容易であり、しかも被告らが右各ラインを使用した製品の製造、販売がA、Bラインを使用した原告製品との誤認混同を生ぜしめることを争つていることは本訴弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、被告らは、これらの箇所にもそれぞれのラインを使用した製品を製造販売し、または販売するおそれがあるというべきである。

したがつて原告は、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告大洋潜水に対し、使用箇所(1)ないし(25)にA'、B'ラインを使用したウエットスーツの製造販売の差止め、被告タバタに対し右製品の販売の差止め、被告マコト産業に対し右使用箇所にA''、B''ラインを使用したウエットスーツの販売の差止めを各請求する権利を有する。

ところで、<証拠>によれば、訴外大和工業は、本件C、Dラインと類似の色ラインを製造販売していることが認められる。

しかしながら、被告大洋潜水、同タバタがC'、D'ラインを、被告マコト産業がC''、D''ライン(CラインとC'・C''ライン、DラインとD'・D''ラインとが同一の色ラインであることは、本訴弁論の全趣旨に徴し明らかである。)を現在は勿論これまでにも使用したことがないことは前判示のとおりであり、被告らが訴外大和ゴム工業の色ラインを使用するおそれがあることを認めるべき証拠はないから、原告は被告らに対して、これらのラインを使用したウエットスーツの製造販売、または販売の差止めの必要性がないといわざるを得ない。

六更に進んで、原告主張の不法行為の成否につき検討する。

1 被告らの前記三の各行為は、不正競争防止法一条一項一号に該当する違法行為であるところ、<証拠>を総合すると、原告は、被告タバタに対し、昭和五六年三月二日付その頃到達の内容証明郵便にてA'ラインを使用したタバタ製品が原告製品の三色ラインと類似するので不正競争防止法一条一項一号に基づき販売の停止を求める旨の警告書を送付したこと、同年四月頃被告マコト産業に対しても右同旨の警告書を発送し、これに対して被告タバタは、同年三月一三日付その頃到達の内容証明郵便にて、現在入手し得る資料によつては被告タバタが発売予定のウエットスーツを販売する行為が右法条に違反するとは考えていない旨、原告が同被告の取引先などに右ウエットスーツが原告の権利を侵害すると言い触らしているが右行為は同法一条一項六号に違反する旨の回答並びに警告を行つていることが認められ、右の事実によれば、タバタ製品の製造元である被告大洋潜水も又その頃、被告タバタより、右原告からの警告の事実を知らされていたものと推認される。

2 右のとおりであるから、被告大洋潜水は右警告の事実を知りながら、被告タバタ、同マコト産業は、右警告を受けながら、それぞれその製品を製造販売し、又は販売したのであるから、少なくとも過失により前判示のとおり原告製品との混同を生ぜしめる行為をしたものと認められる。

したがつて被告らは、不法行為に基づき原告の蒙つた左記損害を賠償する義務がある。

すなわち、<証拠>によれば、原告は、被告らの右不法行為により、本訴の提起を余儀なくされ、その追行を原告訴訟代理人藤巻次雄に委任し、弁護士費用として六〇万円を支払う旨約したことが認められるところ、本訴における事件の難易、訴額、右差止請求の認容の程度などを考慮すると、右弁護士費用のうち金三〇万円は右不法行為と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

原告は右損害全額につき被告ら三名が不眞正連帯債務関係に立つものとして被告ら各自にその全額を請求しているが、本件において、被告大洋潜水の製造・販売と被告タバタの販売とが共同不法行為となることは明らかであるが、これと被告マコト産業の製造販売とは相互に別個独立の行為であるから、右損害全額につき被告三名の共同不法行為の成立を認めるわけにはいかない。しかして右損害につき被告大洋潜水、同タバタと被告マコト産業との寄与率を的確に把握し得る資料はないのでこれを折半し、その一を被告大洋潜水、同タバタの負担に、その余を被告マコト産業の負担に帰せしめるのが相当である。

七以上のとおり、原告の本訴請求は、被告大洋潜水に対し、別紙目録(一)(1)ないし(25)記載のウエットスーツの赤線部分に、同目録(三)1記載のA'ライン又はB'ラインを使用したウエットスーツの製造販売の差止め、被告タバタに対し右ウエットスーツの販売の差止め、被告マコト産業に対し別紙目録(一)(1)ないし(25)記載のウエットスーツの赤線部分に同目録(三)2記載のA''ライン又はB''ラインを使用したウエットスーツの販売の差止め、並びに被告大洋潜水、同タバタ各自に対し損害金一五万円の、被告マコト産業に対し損害金一五万円の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸藏)

目録 (二)

原告使用ラインの説明書

末尾添付写真の1ないし3(A)、4ないし6(B)、7ないし9(C)、10ないし12(D)の各色を組合わせたラインにして各色の間隔は9ミリメートルで、各色の間に1ミリメートルの黒色のラインを含んだもので、各色の名称は左記のとおり。

番号

JIS Z8102

JIS Z8721

JIS  Z8701

一般色名

色相

明度/彩度

X

y

Y(%)

1

黄みのさえた赤

7.6R

4.0/13.2

0.5833

0.3305

11.96

2

黄赤

4.9YR

5.8/12.7

0.5316

0.4135

27.74

3

ふかい黄

6.8Y

7.0/9.5

0.4372

0.4721

43.71

4

さえた青

6.5PB

2.9/14.0

0.1671

0.117

6.3

5

5.3PB

4.1/12.1

0.1823

0.1679

12.93

6

にぶい青

1.8PB

6.1/5.7

0.2486

0.2649

31.22

7

暗い緑

8.6G

3.2/6.6

0.2255

0.3842

7.73

8

黄みの緑

0.9G

5.7/7.6

0.2983

0.4399

26.74

9

黄緑

3.9GY

7.1/7.0

0.372

0.4482

44.15

10

青みの紫

2.3P

2.8/12.5

0.246

0.1403

5.88

11

赤紫

2.4RP

4.7/10.2

0.3575

0.2389

17.07

12

にぶい紫

9.1P

6.2/3.5

0.3151

0.2906

32.02

目録 (三)

1 被告大洋潜水株式会社・同株式会社タバタ使用ライン

末尾添付写真の1ないし3(A')、4ないし6(B')、7ないし9(C')、10ないし12(D')の各色を組合わせたラインにして各色の間隔は9ミリメートルで、各色の間に2ミリメートルの黒色のラインを含んだもので、各色の名称は左記のとおり。

番号

JIS Z8102

JIS Z8721

JIS  Z8701

一般色名

色相

明度/彩度

X

y

Y(%)

1

黄みのさえた赤

7.1R

4.3/13.6

0.5716

0.3283

14.2

2

黄みのさえた赤

0.8YR

5.0/13.1

0.5618

0.3755

20.19

3

黄赤

7.8YR

6.3/12.1

0.5098

0.435

33.13

4

紫みの青

7.6PB

3.5/12.8

0.1946

0.1444

9.17

5

6.0PB

4.5/10.7

0.2036

0.1862

15.46

6

にぶい青

2.8PB

6.0/6.6

0.2414

0.2533

29.71

7

暗い緑

8.6G

3.2/6.6

0.2255

0.3842

7.73

8

黄みの緑

0.9G

5.7/7.6

0.3983

0.4399

26.74

9

黄緑

3.9GY

7.1/7.0

0.372

0.4482

44.15

10

青みの紫

2.3P

2.8/12.5

0.246

0.1403

5.88

11

赤紫

2.4RP

4.7/10.2

0.3575

0.2389

17.07

12

にぶい紫

9.1P

6.2/3.5

0.3151

0.2906

32.02

2 被告株式会社マコト産業使用ライン

末尾添付の1ないし3(A'')、4ないし6(B'')、7ないし9(C'')、10ないし12(D'')の各色を組合わせたラインにして各色の間隔は9ミリメートルで、各色の間に2ミリメートルの黒色のラインを含んだもので、各色の名称は左記のとおり。

番号

JIS Z8102

JIS Z8721

JIS    Z8701

一般色名

色相

明度/彩度

X

y

Y(%)

1

黄みのさえた赤

7.2R

4.3/13.4

0.5716

0.3287

13.87

2

黄みのさえた赤

0.8YR

5.0/13.0

0.5614

0.3748

20.1

3

黄赤

7.5YR

6.2/12.2

0.5134

0.4329

32.09

4

紫みの青

7.2PB

3.4/11.6

0.1936

0.1499

8.36

5

5.5PB

4.3/10.1

0.2016

0.1896

14.28

6

にぶい青

2.2PB

5.9/5.9

0.2456

0.2601

28.62

7

暗い緑

8.6G

3.2/6.6

0.2255

0.3842

7.73

8

黄みの緑

0.9G

5.7/7.6

0.3983

0.4399

26.74

9

黄緑

3.9GY

7.1/7.0

0.372

0.4482

44.15

10

青みの紫

2.3P

2.8/12.5

0.246

0.1403

5.88

11

赤紫

2.4RP

4.7/10.2

0.3575

0.2389

17.07

12

にぶい紫

9.1P

6.2/3.5

0.3151

0.2906

32.02

「原告製品掲載誌一覧表」

番号

発行年月

(昭和)

刊行物名

月発行部数

発行者

53、5

「ポパイ」昭和五三年六月号

三五万

平凡出版株式会社

54、3・5・7・9

「ダイビングワールド」昭和五四年四・六・八・一〇月号

一四万

株式会社

ダイビングワールド

54、5

「マリンダイビング」昭和五四年六月号

九万

株式会社

水中造形センター

54、3・6

「サーフィンワールド」昭和五四年四・七月号

八万

オーシャンライフ

株式会社

54、6

「スポーツノーツ16」

54、4

「サーフィンライフ」

一三万

株式会社

マリン企画

54、8

「マリンダイビング」昭和五四年九月号

③に同じ

③に同じ

55、1・4・6・8・10・12

「ダイビングワールド」昭和五五年二・五・七・九・一一月号、昭和五六年一月号

②に同じ

②に同じ

55、6・8

「マリンダイビング」昭和五五年七・九月号

③に同じ

③に同じ

55、3・5

「サーフィンワールド」昭和五五年四・六月号

④に同じ

④に同じ

55、3・4・6・8・10・12

「サーフィンライフ」昭和五五年四・五・七・九・一一月号、五六年一月号

⑥に同じ

⑥に同じ

55、2

「ダイビングワールド」昭和五五年三月号

②に同じ

②に同じ

55、5

「マリンダイビング」昭和五五年六月号

③に同じ

③に同じ

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例